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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1578号 判決 1971年12月25日

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

当裁判所は被控訴人の本訴請求を正当であると判断するものであるが、その理由は、以下に付加するものを除くほか、原判決がその理由において説明するところと同一であるから右説明を引用する。

控訴人らは本訴請求が失当であることの理由の一として、被控訴人と控訴人らとの間には係争工事請負契約から生じた紛争につき、これを建設業法による建設工事紛争審査会の仲裁に付する旨の合意(仲裁契約)が成立していない旨主張するが、いずれも成立に争のない甲第二号証の一、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一ないし四、第六、第七号証および第九、第一〇号証、原本の存在および成立に争のない同第八号証、原審証人横大路俊一および大島英一の各証言並びに本件弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人らは全員で協力して係争建物の建築を計画し、控訴人らの内部関係では右建物を控訴人らの共有とするが、請負人との関係では、控訴人マスが他の控訴人らの母親であるところから建築工事の注文者となることとして、同人が昭和三八年五月一三日被控訴人を請負人として同人との間に係争の工事請負契約を締結し、その際作成された契約書には社団法人日本建築学会、日本建築協会、日本建築家協会および全国建設業協会の協定によつて作成された工事請負契約約款(甲第二号証の二)が添付されて同契約書の一部となつており、而して右約款第二九条には係争工事請負契約について生じた紛争に関しては建設業法による建設工事紛争審査会の仲裁に付することができる旨の記載があること、本件中央建設工事紛争審査会による仲裁手続の過程においては、当初控訴人マスのみを被申請人として本件仲裁手続が進められ、同控訴人は法律専門家たる弁護士大島英一を代理人に委任して応訴したが、後に被控訴人がその余の控訴人らをも被申請人として追加する旨の当事者変更の申立をしたことに基き、控訴人ら全員は当初から全員が係争工事請負契約の注文者であつたことを認め、控訴人マスを除くその余の控訴人ら全員も異議なく本件仲裁手続に被申請人として応ずることとし、控訴人マスと同様にその手続進行方を弁護士大島英一に委任して同弁護士に代理権を授与し、右弁護士は控訴人ら全員の代理人として本件仲裁手続終結に至るまで控訴人らのために紛争の本案について弁論をしたこと、しかしながら本件仲裁手続の全過程を通じ、大島弁護士から、控訴人らが係争工事請負契約締結の際、前記四会連合協定にかかる工事請負契約約款を被控訴人から交付を受けなかつたとか、その交付を受けたが同約款中の仲裁条項の存在に気付かなかつたなど、およそ仲裁契約の存在しなかつたことについてのなにらの主張もなされなかつたこと、しかも本件仲裁手続の各期日には控訴人マスは殆んど欠席したが、その余の控訴人らのうち少くとも一人は大島弁護士とともに常に出席して発言をし、被控訴人から前記当事者変更申立のなされた昭和四二年八月三一日の第七回期日にも控訴人高橋国徳、同利守および同フクヱが大島弁護士とともに出席していたが右申立に対して何らの異議も述べず、その後同四三年二月一二日第一一回期日における手続の終結に至るまで各期日に前同様控訴人らのうち少くとも一人は出席することを常としていたが、右出席した者から仲裁契約が存在しなかつたことについてのなにらの発言もなされたことがなく、被申請人本人として紛争の本案についてのみ発言していること、大島弁護士は本件仲裁手続につき控訴人マスから事件の委任を受け、代理人として事件処理に当るに際し仲裁手続について右マスに説明をしており、控訴人らは全員本件仲裁手続の当初から仲裁手続について相当の理解を有していたことを認めるに十分である。されば、控訴人らの仲裁契約が存在しなかつたとの主張は到底これを採用するに由なく、かえつて前顕大島証人の証言によれば、控訴人らは本件仲裁判断の結果が同人らに不利であつたところから、右仲裁判断の送達を受けた後になつてはじめて仲裁契約の不存在を唱えるに至つたとの事情をも窺うに難くなく、控訴人の右主張の理由のないことは明かといわなければならない。

よつて被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であつて本件控訴はいずれもその理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項の規定により本件控訴はいずれもこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき同法第八九条、第九三条第一項本文および第九五条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

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